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Media Info 【火を噴く実業家 KISSジーン・シモンズのビジネス塾(第1回)】

世界初、人の顔の商標登録でビッグマネーを生む

派手なフェイスペイントに、火を噴くパフォーマンス。1970年代初頭にデビュー以来、ヒット曲を連発し、現在に至るまでハードロックの頂点に君臨し続けるロックバンドKISS。その創設メンバーのジーン・シモンズは、アーティストとしてだけでなく、スゴ腕の実業家としても知られている。ブランド・アイデンティティーを熟知し、バンドの象徴であるフェイスペイントをいち早く商標登録して、ビジネス化した先駆者だ。現在までに、ライセンスした商品は、コミック、アクションフィギュア、テレビゲームからコンドーム、棺桶に至るまで5000アイテム以上にのぼる。また、プロのスポーツチーム、レストラン・チェーン、金融ベンチャー、レコードレーベルなどの事業も手がける。そうした経験を踏まえて昨年、これから起業を目指す人たちに向けて書籍『 KISSジーン・シモンズのミー・インク~ビジネスでドデカく稼ぐための13の教え』を執筆した。ロサンゼルス・ビバリーヒルズの豪邸に住むジーン・シモンズ氏を訪ねて、インタビューし、実業家としての素顔に迫った。

(聞き手は、音楽プロデューサーの田端花子氏)





ー1973年にKISS結成以来、CDやアルバムの売り上げが1億枚を突破し、興行収入はビートルズやプレスリーを上回ると聞いています。KISSがほかの世界的なバンドやミュージシャンと明らかに違うのは、音楽の追求とともに、バンド活動をビジネスとして徹底的に追求している点です。著書『ミー・インク』の中でも「自分たちの活動はビジネスだと自覚していた」と書かれているが、なぜそのような意識を持っていたのか?

 

ジーン・シモンズ(以下、ジーン):この業界に入ったとき、ミュージックではなくミュージック・ビジネスという言葉が使われていた。だからポール(編集部注:ポール・スタンレー)とKISSを始めたときは、このミュージック・ビジネスで大きなホームランを打つことを意識した。Go Big or Go Home(編集部注:大きなチャレンジに挑む覚悟がないなら最初からやるな)だよ。恐らく、何をやっていたとしても、その意識はあったと思う。それを、大好きなことでやれるんだから、こんな幸せなことはないよ。
 

ー音楽バンドの事業規模は、一般には見えにくいものです。KISSを一つの企業と考えると、どれくらいの売り上げ規模の事業体なのか?
 

ジーン:まず、ツアーをやる年か否かで違ってくる。150か所のツアーを一つやればグロスで1億ドルぐらい稼ぐことになる。また、今の音楽業界における音楽収入も、どの時期を考えるかでまったく違ってくる。各々のソロ活動というのもある。KISSの売り上げを公表することはないよ。

 

女の子の嬌声より、男の子の憧れの方が有望だ

 

ーバンド結成以来のCDやアルバムの販売収入と、KISSのロゴやフェイスペイントなどのライセンス収入のどちらが多いのか? また、KISS結成以来のトータルのライセンス収入(CDや興行など、通常の音楽活動を除く)はどのくらいか?
 

ジーン:額は公表しないが、収入の質が違うことは伝えておこう。例えばライブというのは、短い時間で莫大な金額になるものだ。1日2時間のライブで100万ドル以上の売り上げになる。1日だよ。それに比べて音楽の印税や著作権、ライセンスのビジネスは1日にそこまで稼げなくても、何もしなくても日々コンスタントに入ってくる。後者の質問についてだけど、メディアで試算されている金額はおおよそ合っているよ。(編集部注:米メディアの試算額は約10億ドル)
 

ー商標権の供与など、ライセンス・ビジネスの可能性にどのように気づいたのか? その経緯について教えてほしい。ビジネスパーソンや起業家がKISSに学ぶべき点は、商標ビジネスの展開についてだと思うので。
 

ジーン:バンドを始めて間もない頃、商標に関して独学で調べたんだ。息の長いバンドになっていくには、イメージやブランディングは絶対に重要なファクターだと直感していたからね。だから、我々はアイドル的な存在になって女の子にキャーキャー言われるのでなく、男の子をターゲットにした。なぜなら、女の子がメインターゲットだと次のアイドル的バンドに取って代わられるからね。でも男の子はいったん「かっこいい!」と思ったら、とことんついてきてくれる。そこで、私自身小さい頃から憧れだったアメリカン・ヒーローのようなペルソナとメイクを作ってみた。

 そして、商標についてあらゆる文献を読んで、ブランディングも考えた。KISSの音楽セールスやコンサートが商業的に成功していくにつれ、KISSのこのキャラクターのお蔭でグッズも飛ぶように売れるようになったんだ。あとはファンの要望に応えて商品を増やしていったら、いつの間にかライセンス・ビジネスも大きな柱になっていた、というわけさ。 

 商標ビジネスに関しては、学べば学ぶほど、リテラシーのある人とそうでない人とでビジネスの規模に大きな差が出ることを知った。驚くほど多くのものが商標登録されていない。自分の事業やブランドを築く中で、商標のこともきちんと学んでビジネスにつなげていくことは大切なことさ。特にこれからの時代の起業家はね。

 

何が「クール」か、ユーザーの声を丁寧に聞く

 

ーフェイスペイントやKISSのロゴがビッグマネーを生むと確信したのは、いつ頃か? 何をきっかけにそう思ったのか?
 

ジーン:デビュー間もない頃だったね。独特のルックスが出来上がったので、トレードマーク化するのはどうか、という話が当時のマネジャーから出た。

 その頃、商標のことなど何もわからなかったので、早速図書館に行って調べたんだ。そう、商標登録の方法や仕組み、著作権に関する本などはすべて図書館にあったからね。しかもタダで調べられる(笑)。ただ、メイクを思いついたときは商標なんか頭にないよ。バンドの奴らと遊び半分でメイクをしたとき、何ともしっくりくるものがあったんだ。感動を覚えたね。自分にピッタリなアイデンティティーを見つけたというか。メンバー各自で自分のメイクを考えたので、例えば、ポールのメイクを私がしても全くしっくりこない。自分たちで考えたメイクが各々ピッタリと自分たちの中でハマったので、そのとき、ああ、これはうまくいくな、と確信したんだ。KISSのメイクの商標登録は、初めて人間の顔が商標登録された例だと聞いている。
 

ー企業がブランドを確立し、ライセンス・ビジネスをうまく展開する鉄則をいくつか教えてほしい。
 

ジーン:ライセンス・ビジネスで何が成功するかは、ユーザーが決める。何が「クール」なのか、ユーザーの感覚は鋭い。その声に丁寧に耳を傾けることが大切さ。どんな確立されたビッグ・ネームのブランドでも、ライセンスには全く不向きなものもある。フォード社のTシャツを欲しいと思うかい? 音楽でいえば、U2は最も成功したバンドのひとつだけど、U2のコミックを読みたいとは思わないだろ?

 その逆もあって、名前としてはそんなに知られていなくても、ライセンスに向いているものもあるんだ。いい例が、私が大好きなモーターヘッド。バンドとして商業的に大成功を収めたわけじゃないけど、Tシャツは飛ぶように売れた。ラモーンズもそうさ。基本的にアンダーグラウンドなクラブ・バンドで、一回だってアリーナクラスになったことはなく、レコードもゴールドディスクが1つあるかないか。でも、あのロゴが入ったTシャツはみんな欲しがる。ラモーンズのTシャツを好んで着てる奴らで、一度も彼らの音楽を聴いたことがない人なんていくらでもいる。だからブランドの名前の大きさとライセンス・ビジネスの規模は呼応するわけじゃないのさ。どんなものがライセンスに向くのか、その嗅覚を磨くことが大切だね。

(次回につづく)